逆寅次郎のルサンチマンの呼吸

独身弱者男性が全集中して編み出した、人間の無意識にあるもの全てを顕在化する技を伝授します。

SFにおける時間と空間は直線的時間の圧力に疲弊した人間を癒すためのルサンチマンとして機能する

今週のお題「SFといえば」だ。
SF映画は何本か観たことあるが、SF小説はほとんど読んだことが無い。

だからこのお題について語るのは難しいが、1つ言えることは。
「SFには、ルサンチマン(奴隷道徳)の側面がある」ということ。

そんなことを言うと、SFファンには顰蹙を買いそうだが、それはあり得る。
「Science Fiction」というか「Space Fantasy」だな。
「Space Fantasy」が、ルサンチマンに近い。

なぜか。
それは「SFというのは、現実ではない世界を描いているがゆえに、現実逃避を促す」からだ。

なぜ現実逃避をしたいのか?
考えてみてほしい。
昨日は金曜日だった。

多くのサラリーマン、労働者たちは、週末の仕事を終えて、居酒屋で1週間の疲れを癒したり、飲みにいったり、コロナが広がってきたから家飲みにしたりと、ホッと一息つけるのが金曜日だ。
遅くまで仕事をして、終電に乗り込む人もいるかもしれない。

ふぅうぅ…疲れたぁ~~~~
結局、終電帰りだよ……ふぅ。
でも明日は土曜日だ…会社が休みだ…ふぅ…

(引用元:闇金ウシジマくん(10)[ 真鍋昌平 ]

しかし、月曜になるとどうだ?
また直線的時間の圧力を被る。
その話は前にもした。

gyakutorajiro.com時間の流れ、その直線的経過とともに、「今月の売上目標」「今月の目標進捗」等、時間とともに売上の計上、成果物の提出等が求められる。

資本主義社会に生きる人間、というか資本主義以前もそうだったかもしれないが。
人間は常に、直線的時間の支配を被る。

ナルシシズム的自我が潜在的対象と現実的対象に取ってかわるとき、すなわち、その自我が潜在的対象の置き換えならびに現実的対象の偽装をわが身に引き受けるとき、その自我は、時間のひとつの内容を他の内容で代理させているわけではない。

反対に、わたしたちは、第三の総合のなかに踏み込んでしまっているのだ。
時間は、あらゆる可能な記憶的内容を放棄してしまい、まさにそうすることによって、エロスによってその内容がもたらされる円環を打ち砕いてしまったと言えよう。

時間は、繰り広げられ、まっすぐにされたのだ。

時間は、迷宮の最後の形態をとったのだ。
ボルヘスの言うような「見えない、絶えることのない(84)」直線をなした迷宮の形態をである。
厳密な形式的かつ静的な順序と、重圧的な総体と、不可避的なセリーをそなえた、蝶番からはずれた空虚な時間は、まさしく死の本能である。


(84)ボルヘス『八岐の園』(鼓直訳、『伝奇集』所収、福武書店)94頁あたりか。

(引用元:差異と反復 [ ジル・ドゥルーズ ] 第二章 それ自身へ向かう反復)

時間の第三の総合、順序付けられた、直線的時間の圧力。
こんなはずじゃなかった。
現実的対象としての自我、はこんなものなのかと。

月曜日から金曜日まで、満員電車に乗り、会社のため、売上のために走り続ける。
それが、自分が求めていた人生だったのか。
まっすぐにされてしまった。
俺の身体は奪われた。


それゆえ、人間はこの時間軸の抑圧から、逃れたいと思う。
時間の流れを円環に、永遠回帰の欲望が沸き上がる。

gyakutorajiro.com直線的時間の支配から逃れた、別の時間軸の世界に逃れたい。
宇宙にロマンを馳せる。「ああ、こんな大地から、直線の時間から、プレッシャーから逃れたい!」
マイケル・ジャクソンジャネット・ジャクソンは叫んでる。

www.youtube.comMichael Jackson & Janet Jackson - Scream (David Morales Classic Club Mix)

Stop pressurin' me!「僕に、私に、プレシャーを与えないでくれ!」ってね。

人間は常にプレッシャーに苛まされる。
働いていないニートや引きこもりでさえ「働け」と。

gyakutorajiro.com何がプライバシーだお前は!いいか、大人になったら働いて税金を納める。それが社会人の務めだ!

言っとくがみんなな、必死に我慢して、頑張ってんだぞ!

契約社員?大学まで出してやったのに、なんで正社員になれないんだよ。非正規なんてお前、アルバイトとおんなじじゃないか。ええ、何十社も受けてさ、一社も合格しないって、どういうわけだよ。黙ってないで何か言えよ。

結婚はできないわ、仕事は続かないわ。恥ずかしくないか。少しは俺の立場も考えろ。このままだとお前、家族の恥さらしだぞ。

だから宇宙に思いを馳せる、意識を及ぼす。
こんな現実から逃れたいと。

そして、直線的時間軸から逃避する音楽が生まれた。
スペイシーな音楽、宇宙をイメージする音楽。

一時期、俺はそういう音楽、特にハウスミュージックをよく聴いていた。
たぶん会社員でのストレスが辛すぎて、SF的雰囲気をまとったスペイシーな音楽を好んだんだろうな。

かつてdigしたスペイシーな曲たちを、久々に貼っておくかね。
いつでも聴いて、現実逃避できるように。

www.youtube.com

Orlando Vaughan – Better Than Never (Main Mix)

この曲は姉妹サイトでも紹介した。

iine-y.comちょっと疾走感があるから、直線的時間っぽいが、4分20秒過ぎた辺りから急にスローになるのがいい。

www.youtube.comDJ Spinna feat. Selan - Back 2 U (The Realm Remix)

この曲はバラードっぽい感じ。ジャケットからしてスペイシーでSF感あるよね。
「Back 2 U」ってことだから、「宇宙旅行から君の為に帰還するよ~」みたいな感じか。

www.youtube.comOne (Simon Grey 2007 Version) (feat. Kylie Auldist)

パーカッションとシンセ音がいい感じに交錯している。メインの女性ヴォーカルの方が人間味あって、ハモってる男性の方がスペイシーな声してるな。
SF映画で有名な「フィフィス・エレメント」の「THE DIVA DANCE」が好きなら、この曲も気に入るだろうよ。

www.youtube.comThe Diva Dance - The Fifth Element - Inva Mula (Lucia di Lammermoor)

そんで次はこれだ。

www.youtube.comEarnshaw & Giles - Deja Vu (Main Musical Mission)

ヴォコーダーで声を変えて、アレンジもスペイシーだ。疾走感はあるけど、直線的時間ではない。「デジャヴ」は和訳すると「既視感」だ。
つまり、時間が逆向きに向かったり、彷徨ってる。

そんな感じに聴こえないだろうか?
ヘッドホンでこの曲を聞くと右へ左へ音がグルグルとうねるような、円環構造のような感じもある。

大学生の時、チェルフィッチュという劇団の「三月の五日間」という演劇のDVDを観た。ある男と女が渋谷のラブホテルに泊まり、何日も獣のように性交し続けるという舞台設定の中で、女は「いつもの渋谷にいるのに、なんか旅行に来ているみたい」というセリフを吐く。

chelfitsch20th.netこれは、たとえ渋谷であっても「ホテルで連泊する」というその行為のみで、<今までの過去の旅行で連泊した経験="経験">の記憶に接続され、デジャヴを感じたからだろう。
だからこそ渋谷とは違うような錯覚を、過去の経験と現在の状況が接続されたからこそ、いつもの渋谷は旅行地と化した。

このリチャード・アーンショーのデジャヴという曲も、グルグルとエロスの円環に陶酔しているような雰囲気がある。
近未来的なアレンジは、現実の社会的生活や義務などが付随する直線的時間から離脱できるような浮遊感がある。

そろそろ日本人アーティストで、SF感ある曲を。

www.youtube.comJazztronik - future talk

Jazztronik(野崎良太)は日本人だが、youtubeのコメント欄に日本人のコメントがない。海外でも好きな人多いわな、Jazztronikは。
この「future talk」聴いた時は「カッコいいなぁ」と思ったね。

www.youtube.comFantastic Plastic Machine (FPM) / Reaching for the Stars [Vo: INCOGNITO] (2003 "too")

Fantastic Plastic Machine田中知之)のSF感ある曲。
この曲、MAW(Masters At Work)にもリミックスされてるな。

www.youtube.comMasters At Workのアレンジは、スペイシーでSF感ある曲が多い。
米ローリング・ストーン誌「史上最高のダンス・ソング TOP200の1位になってる、Donna SummerのI Feel Love。

amass.jpこれもMasters At Workのアレンジがカッコいい、SF感ある。

www.youtube.comDonna Summer - I Feel Love (Masters At Work DMC Remix)

MASTERS AT WORKのLITTLE LOUIE VEGAのバンドプロジェクト'ELEMENTS OF LIFE'の曲、序盤はSF感ないが、終盤にかけてスペイシーなアレンジになってくる。

www.youtube.comElements of Life - You Came Into My Life (Louie Vega Roots NYC Mix)

サカナクションも、スペイシーでSF感あるアレンジの曲あるよな、特にこの曲。

www.youtube.comサカナクション / セントレイ

「午前0時の狭間で」「夜間飛行疲れの僕は宇宙」というように、ある時間を契機にして、異世界である宇宙に意識が向かってる。

「1000と0と線と点の裏」は、宇宙のようなシンプルな2進数の世界に向かいたい欲望の現れだな。

www.excite.co.jpノイズの多い現実の社会、現実の大地から逃走して「僕と君が繋がる世界」という、シンプルな世界を求める。
人間の欲望が渦巻いていない、宇宙のようにシンプルで美しい世界に向かいたい。

インタビューによると、歌詞のテーマが「モラトリアム」らしい。

tower.jpモラトリアム、直線的時間に抗い、滞留している。
つまりこのスペイシーなSF感のある曲の中に、直線的時間の抑圧から解放されたいルサンチマンを垣間見ることもできるだろう。

また、直線的時間、歴史は、人種差別を生んだ。争いや戦争を生み続けた。
その醜い人間の世界から逃れたい。逃走したい。

デトロイト・テクノは、その可能性を提示した。

www.youtube.comUnderground Resistance - Hi-Tech Jazz 

テクノには、人種を超えて楽しめる可能性がある。決して、無機質な機械音の塊じゃねえぞと。

アンダーグラウンドレジスタンスは『Nation 2 Nation』(民族から民族へ)、『World 2 World』(国から国へ)、『Galaxy 2 Galaxy』(銀河を越えて)等のアルバムを出している。

URが何に対してレジスタンス(抵抗)していたかというと、アルバムのタイトルから伺うに、この差別的な世界だろうな。
それをテクノ、音楽による革命によって意識を変革させようとしたのではないだろうか。
Twitterが更新されていないので、今活動しているかどうか知らないが。

twitter.comまあそういう、少し政治的な意味合いもあって、曲もカッコいいからこの曲は「デトロイト・テクノのアンセム」みたいに言う人もいるみたいね。

似たような価値観でいうと「宇宙船地球号」だの、「地球市民」だの、「国境なんてない」みたいなヒッピー的な価値観。

それは素敵だ。
また今回、紹介した曲、どれも自分が好きな曲ばかりだ。

しかしそれはそれで、置いといて。
よーく考えてみると、やっぱり、ルサンチマンと繋がっている。

SFの世界、スペイシーな音楽、それは素晴らしい。
だがそれは直線的時間、この糞ったれの資本主義社会の大地からの逃走でもある。

宇宙という、日常から遠いテーマにフォーカスする。
それによって、「はぁ、100g500円の肉とか買えないわな」だとか、「今の給料で家庭とか作れんのかな」だとか、もっと自分に関係のある些細な日常や、自分の社会的ポジションを、希薄化していないだろうか?
SFの世界に浸る時に。
自身を、この資本主義社会の呪われた大地において相対化することを避ける。

そこに、ルサンチマンがある。
と、言わざるを得ない。